屠蘇散(とそさん)と屠蘇酒(とそしゅ)あけましておめでとうございます。
皆様は、お正月に「お屠蘇」を飲んで、新年のお祝いをしますか?過日テレビで、当店の「延寿屠蘇散」のご紹介をいただきました。
2014年1月11日、テレビ大阪「おとな旅あるき旅」2014年10月8日、BSフジ「日本遺産物語」お正月に飲むお酒を、区別無く「お屠蘇」と呼んでいる方も少なくありません。
お屠蘇(とそ)とは、屠蘇散という漢方薬をお酒・味醂に浸けた「薬酒」で、一年間の邪気を払い、長寿を願って正月に飲みます。
そもそも「屠蘇」とは本来、「『蘇』という鬼を屠(ほふ)る(殺す)」ということだと言われています。「屠」には「死」「葬る」という意味があります。
また、「邪を屠(ほふ)り、身体を蘇らせる」という意味からこの名がついたという説もあります。
*鬼=邪疫病魔=わるいはやりやまい
*邪…風寒暑湿等の外因によって起こる疾病の病原、例えば、寒邪、湿邪
屠蘇散は、新しい年の出発に当たって、新陳代謝の滞りを清掃し、身体を清健にして、長寿をはかるという意味で処方されたものです。
屠蘇散は、一説には三国時代の名医・華佗の処方によるものといわれています。
中国の唐の時代の「外台秘要」という総合医学書には、伝わってきた正月の風習について次のように記しています。
「屠蘇酒は、疫病から人を守る。八種の生薬を刻んで紅い袋に入れ、大晦日に井戸につけておく。これによって井戸水を清らかな聖なるものにする。正月早朝、日の出と共にそれを取り出して、今度は酒で煎じる。東方に向いて一家で飲む。飲む順序は年齢の小さな子供から年長のものへ。量は自由。一人が飲めば一家が無病無疫。一家全員が飲めばその家の一里四方が無病無疫。三日たったら煎じカスを再び井戸へつける。そうすれば一年中無疫である。」
これが嵯峨天皇の時代(9世紀初め)に日本に伝わり、宮中での儀式として行われ、江戸時代には武家や一般の上流階級にも取り入れられるようになったようです。
『和漢三才図会』造酒類の「屠蘇酒〔付〕白散」には、天皇が元旦の四方拝と歯固めの供を終えた後、典薬頭が屠蘇(とそ)酒と白散を献上し、それを薬子(くすりこ。毒味をする童女)に試させて、それから奉進したとあり、この儀式が嵯峨天皇の弘仁年中(810~824)に初めておこなわれたということが書いてあります。またこの薬酒には屠蘇、白散のほか度嶂散(とちょうさん)というのがあって、飲み方にも順番があり、まず最初に一献が屠蘇、二献が白散、三献が度嶂散とされています。

ちなみに『日本歳時記』には、白散は白朮、桔梗、細辛を各一匁配合するとあります。
度嶂散は、麻黄、山椒、白朮、桔梗、細辛、乾薑、防風、肉桂が配合されています。
平安時代の貴族は屠蘇、白散のいずれかを、室町時代では白散を、江戸時代の徳川幕府では屠蘇を用いていた様です。
この風習はやがて庶民にも広まります。 明治末頃は、年末になると薬種屋の店頭には延寿屠蘇散と書かれたビラが下がりました。
『本草綱目』酒の部に「屠蘇酒」が記載されています。
それによると
赤朮(せきじゅつ)(キク科ホソバオケラの根茎)水分代謝改善
桂心(けいしん)(クスノキ科ニッケイの樹皮)芳香性健胃、発汗、解熱、鎮痛、整腸、など
防風(ぼうふう)(セリ科ボウフウの根) 発汗・解熱作用、抗炎症作用
抜契(ばっかつ)(サルトリイバラの根茎)解毒、利尿
大黄(だいおう)(タデ科大黄の根茎)瀉下、利尿
鳥頭(うず)(キンポウゲ科トリカブト属の塊根)強心作用、鎮痛作用、末梢血管拡張赤
小豆 (せきしょうず)(マメ科アズキ、ツルアズキの成熟種子)利尿、解毒、消炎
下剤や強心剤などが含まれていて、健康薬というより、解毒薬の性格が強いようです。
現在の屠蘇はかつての処方とは異なり、だいぶ飲みやすくなっています。
現在、当店での「延寿屠蘇散」
・白朮(ビャクジュツ) キク科オケラまたはオオバナオケラの根 利尿作用、健胃作用、鎮静作用
・山椒(サンショウ) サンショウの実 健胃作用、抗菌作用
・桔梗(キキョウ) キキョウの根 鎮咳去啖作用、鎮静・沈痛作用
・肉桂(ニッケイ) ニッケイの樹皮、シナモン 健胃作用、発汗・解熱作用、鎮静・鎮痙作用
・防風(ボウフウ) セリ科ボウフウの根 発汗・解熱作用、抗炎症作用
・陳皮(チンピ) ミカン科ウンシュウミカン果皮 抗炎症・抗アレルギー作用、健胃作用、鎮痙作用
これら生薬成分の効能から考えると、屠蘇散は胃腸の働きをととのえ、のどや気管支を保護する作用が考えられます。
昔からの風習というだけでなく、現在でも、風邪を予防する効果などが期待できる飲み物といえます。
お正月だけに限らず、また薬用酒としてだけではなく、熱湯で振りだして漢方茶(ハーブティー)として続けても効果は期待できます。自分専用の配合の「屠蘇散」を作ってみても楽しいですね。
屠蘇酒の作り方延寿屠蘇散1包を和紙の袋のまま、清酒180ml~360ml(一合~二合)に浸して、一晩そのままおき、翌日にお使いください。
お好みに応じて味醂(みりん)を入れると、甘口の飲みやすい屠蘇酒になります。
漢方茶(ハーブティー)としても味わえます。ティーポットかサーバーに、延寿屠蘇散1包を和紙の袋のまま入れ、熱湯500ml(2カップ半)を注ぎます。
3分ほど蒸らすと、美味しい屠蘇茶として味わえます。
日本酒以外のお酒でもお楽しみいただけます。◆白ワイン:日本酒と同様、冷たい白ワインに一晩浸します。
◆赤ワイン:ボディのしっかりした赤ワインは、屠蘇散を入れて温め、蜂蜜や角砂糖で甘味を付けると、美味しいホットワインをお楽しみいただけます。
◆ウィスキー・ブランデーはお湯割りのお湯にあらかじめ屠蘇散を浸し、引き上げた後にお酒を注ぐと、香りよく楽しめます。